To.カノンを奏でる君
 いつもと同じ時間なのに、こうも違うのか。

 祥多は白い部屋の中で項垂れる。


 夕方は花音がいるのが当たり前のようになっていたから、それに慣れてしまっていた。

 しかし世の中に当たり前の事などないのだ。全ての事に、全ての人に都合がある。

 それを再確認した祥多は更に滅入った。


「花音……」


 祥多はクリスマスにもらったマフラーを抱き、花音を想う。

 体調を崩していると言うのに、見舞いにも行けない自分が歯痒い。


「クソ!」


 空いている右手を握り締め、ベッドに叩きつけた。

 悔しくて悔しくてどうしようもなく、マフラーを額に当てた。

 本気で泣きそうになっていた時だった。


「柚っ元気~?!」


 そんな元気な声とともに扉が開かれる。

 祥多は唖然として扉の方を見つめる。


「……え、誰?」


 突然やって来たショートカットの少女は、祥多を見て首を傾げる。


「や、そっちこそ誰?」


 祥多も聞き返す。


「私は葉山美香子。君は?」

「……時枝祥多」

「祥多君ね。ここは君の病室?」

「ああ」

「葉山柚樹って子の病室知らない?」

「あぁ、隣に入って来た奴か」

「隣?」


 美香子は一旦ネームを確認する。


 304 時枝祥多――その隣を見ると、

 303 葉山柚樹――となっている。


 完全に美香子の勘違いだ。
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