To.カノンを奏でる君
「わあぁ! ごめん、部屋間違えた!」


 美香子は慌てて謝った。

 祥多はそんなドジっぽいところが花音に似てると思い、思わず笑ってしまった。


「気にすんな。弟の見舞い?」

「うん」

「確か小児喘息の子」

「そう。ここは空気も環境も良いから越して来たの。柚樹は引っ込み思案だから仲良くしてやってね」

「ああ」

「ところで君いくつ?」

「15」

「中3?」

「通っていればな」

「同い年かぁ。うん、また来るね。お隣さんだし。じゃあ」


 美香子は扉を閉め、隣の病室に入って行った。


 今の一悶着のせいで、祥多の負の感情は消し去られていた。


(面白い奴、)


 祥多はあの元気いっぱいで空回りの美香子を思い出して笑った。


 ――それから、眠りに就く。何だか寂しくなったりつらくなったり笑ったりして、少し疲れてしまった。

 一時間眠り、それからピアノの時間だ。そう思い、目を閉じた。















 翌日、祥多は花音の訪問を待つも、来る気配がない。小さな溜め息を吐いた。

 案外、花音の訪問を楽しみにしていたらしい。


(本でも読むか)


 祥多はテーブルの上の本を取る。表紙を開いたところで、ノックなしに扉が開いた。


「こんにちはー……あ、ノック忘れた」


 昨日会った美香子だ。
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