To.カノンを奏でる君
「付き合ってないよ」


 その言葉に、美香子は安堵する。


「私、祥多君が気になってるから付き合ってたらどうしようかと思って。話が合って面白いし」


 短い髪を指ですきながら葉山は笑う。

 花音は黙ったまま、カバンを開けて教科書を取り出す。


「花音ちゃん、祥多君の事好き?」


 美香子の言葉に、花音は再び硬直する。そんな花音の様子を見て美香子は言う。


「好きなんだね?」


 花音は俯き、唇を噛む。何も答えられない事が何より悲しい。


「フェアにいこうね」


 にっこり笑う美香子に、花音は動揺を見せた。


「祥ちゃんには言わないで!」

「え?」

「幼なじみでいいの…。今の関係を壊したくないの…っ」


 葉山は眉を潜める。

 何事もまっすぐな美香子にとって、そんな好きなのに中途半端な関係でいいと言う花音が理解出来なかった。


「好きだから付き合いたいと思うんでしょ?」

「思わない! 傍にいられるだけで幸せなの!」

「…………」


 考え方が、双方違っていた。恋愛に対する価値観が合わない。


「じゃあ、祥多君と私が付き合っても笑顔で祝ってくれるんだ?」

「……祥ちゃんは誰とも付き合わない」

「どうしてそんな事が言えんの?」

「貴女には分からない。今までの祥ちゃんを知らない貴女には、祥ちゃんは心を開かない」
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