To.カノンを奏でる君
 花音は冷たくなって色のない自らの手を見、手袋をつけて来なかった事を後悔した。

 冷たいを通り超し、痛んでいる。


 来たのはいいが、どうすればいいか分からない。眠っていたなら楽だと思っていたが、眠っていては話も出来ない。ただ座っているだけになる。


 時間を見て溜め息を吐いた。

 もう8時を回っている。もうそろそろ帰らなければ。あと英語が残っている。

 時間に迫られ、切羽詰まっている。もう帰ろうと立ち上がった時、手を掴まれた。


 驚いた顔をしているのは、花音だけではない。掴んだ方も驚いて目をしばたたかせている。


「花音……」


 寂しげな声を上げ、花音の腕を引く。

 小柄な体からは考えられない力で引かれ、花音は祥多の元に倒れ込む。

 祥多はそれを予想していたかのように花音を抱き止め、花音の背に手を回した。強く強く抱き締める。


 一方、突然抱き締められた花音は、驚いて声も出せずにいる。


「花音。花音……」


 まるで小さな子どものように花音を呼ぶ祥多。


 花音はそんな祥多に驚く。

 花音の知っている祥多は常に前向きで、花音をからかって遊ぶような少年だ。こんな弱い面を見せられたのは初めてだ。


「祥ちゃん……?」


 花音は辛うじて声を発する。
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