To.カノンを奏でる君
「体、気をつけて。まだまだ…寒い、から」


 自分でも分かるほど、震えた声で花音は祥多に言った。

 祥多はぐっと拳を握り、花音の声を聞く。


「サンキュ。お前も体調には気をつけろよ」

「うん。じゃあ、おやすみなさい」


 音もなくで流れる涙を拭いながら、花音は病室から出て行った。


 祥多は締めつけられる想いに、表情を歪めた。

 幸せを願っていた自分が、いつしか彼女の幸せを奪っていたのかもしれない。

 それがどうしようもなく悲しくて、どうしようもなく苦しくて、祥多は肩を震わす。


 病気である自分の体を憎らしく思う。病気でなければ、花音を苦しめる事もなく、想いを告げる事も可能だった。


「祥多?」


 気づけば、少しそこまで時計用の電池を買いに出ていた母が帰って来ていた。


「さっき下で花音ちゃんっぽい子見たんだけど、花音ちゃん来てたの?」

「……来てた」

「何かあったの? こんな時間に来るなんて今までになかったでしょ」

「もう、来ない」

「え?」


 あの約束は間違っていたんだろうか。しなければ良かったのだろうか。


「ピアノ……弾かして」

「え?」

「少しでいい」

「明日でもいいじゃない、」

「今」

「……松岡さんに許可もらえたら、弾きなさい」


 祥多はベッドから降り、ナースステーションに向かった。
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