To.カノンを奏でる君



 昨日、花音と直樹の推薦も無事終わり、やっと落ち着いた。

 花音と直樹は朝の静かな教室でまったりとする。


「やっと終わったわねー」

「うん」

「お疲れ様、ノンノン」

「直ちゃんもお疲れ様」

「今日はちゃんとタータンの所に行くわよね。推薦も終わったし!」

「……行かないよ」


 祥多の話になり、和やかな雰囲気は一変した。

 直樹は意外そうな顔で花音を見つめる。


「先週、夜に顔出したの。祥ちゃんの傍にいるのはつらいって言った」


 直樹は「バカ!」と叫びそうになったが、ギリギリで抑えた。

 祥多を傷つけた事を言おうとしたが、花音もまた傷ついている事を思い何も言えなかった。


 直樹は唇を噛む。

 美香子さえ現れなければ、当然のように三人でいられたのにと苛立つ。


「おはよう、花音ちゃん。花園君」


 笑顔で挨拶して来る美香子を見、直樹の苛立ちは増す。

 彼女は今、当然のように祥多の傍にいるのだ。花音のいた場所に居座っている。


「おはよう、葉山さん。祥ちゃん、どう?」

「元気だけど」

「そっか。ありがと」


 花音は笑顔を美香子に向ける。美香子もまた、笑顔だ。

 花音に勝ったつもりでいるのだろう。


「失せて」


 直樹の殺気立った様子を見、美香子は怯んだ。


「何よ、挨拶しただけじゃない」


 ぶつくさ文句を言いながら、美香子は二人から離れていった。
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