To.カノンを奏でる君
 将来、悪徳商法に騙されるタイプだと心配になる。

 祥多は溜め息を吐いた。


 その花音の“将来”に自分はいない──祥多はそう感じている。

 自分に残された時間、ほんの少しの猶予。だからこそ今は、今だけは花音の時間を少しでも自分の為に割いて欲しい。少しでも長くいさせて欲しい。

 自分が逝く時、笑って挨拶出来るように。


「ほら、今日はもう終わりだ。リクエストは三曲までって約束だろ?」


 祥多はピアノの周りを囲む子ども達に言った。

 少し不満そうにしながらも、大人しくピアノ室から出て行く子ども達。代わりに、祥多の傍らに花音が立つ。


「相変わらず人気者だね」

「それすっげー複雑。たまには代われ、花音」

「やだよ。みんな祥ちゃんが弾いてくれるのを待ってるんだから」

「んな事ねーよ。アイツらにとっちゃ、弾いてくれるなら誰でもいいんだ」

「バカだね、祥ちゃん。同じ立場である祥ちゃんが弾くから、勇気もらいに来るんだよ」


 ここは病院だ。

 病を患っているから、治療に専念する為に入院している子ども達。祥多もあの子ども達は同じ立場なのだ。

 だからこそ、同じ立場である祥多が頑張っている姿を見て勇気をもらっている。自分達も頑張って病を治さなければと治療に励んでいる。


 治療に立ち向かい、将来を切り開いていく勇気──祥多はピアノを通してそれを子ども達に分けてあげていると、花音はそう考えている。
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