To.カノンを奏でる君
「直ちゃん…?」


 花音は恐る恐る直樹の顔を覗き込む。

 直樹は不機嫌そうに花音を見つめて、大きく溜め息を吐いた。


「何で仲良くしてんのよ」

「仲良くしてちゃダメ?」

「……優しすぎっ」


 直樹は椅子を直して自分の席に戻った。

 花音は少し落ち込み気味に直樹を見つめる。


 美香子と仲良くしておけば、祥多の情報を手に入れやすくなる。

 優しいのではなく、自分の為。はっきり言えば美香子を利用しているのだ。


(直ちゃんにも葉山さんに対しても最低だ、私)


 改めてそう思い、花音は更に落ち込んむ。


 ―──と、胃が痛んだ。

 花音は眉間にしわを寄せ、腹部に手を当てる。

 ズキンズキンと痛みは増す。普通に座っていられず、屈み込んだ。


 さっき家から出る前に、痛みは収まったはずだ。


「………っ」


 花音はお腹を抱えながら、痛みに耐える。

 収まれという花音の祈りも虚しく、痛みは更に増す。


「ノンノン?!」


 花音の異変に気づいた直樹が慌てて駆け寄る。肩を掴み、花音を呼ぶ。


「ノンノン! どうしたの? お腹痛いの?」


 直樹は必死で状況を把握しようとするが、花音は痛みで言葉を発する事が出来ない。


「は、花園君? 花音ちゃん、どうしたの?」

「分かんない! 先生呼んで!」

「う、うん!」
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