To.カノンを奏でる君
 美香子は教室を飛び出して行った。

 直樹は懸命に花音の背中を擦る。


「ノンノン、大丈夫?」


 花音の長い髪が重そうに肩から滑り落ちる。

 直樹はどうすればいいのか分からずに混乱する。


 パタパタと走る音が聞こえ、直樹は顔を上げた。すると、息を荒げた養護教諭の小谷が入って来る。


「どうしたの?!」

「あの、よく分からな……」

「草薙さん! どうしたの?! お腹痛いの?!」


 小谷の言葉に花音はやっと小さく頷き、反応を見せる。


 小谷は花音の長い髪を退かし、花音の顔色を窺う。

 冷や汗に、蒼白。小谷は一瞬にして一大事だと悟った。


「誰か職員室行って救急車手配して!」

「は、はい!」

 小谷な指示に、美香子が従う。直樹はおろおろとして立ち尽くしている。


「花園さん! 草薙さんを抱えられる?!」

「あ、はい!」


 直樹は花音を抱き抱える。すんなり持ち上がった花音に、直樹は目を丸くした。


(軽い…!)


 見た目より軽い体重に直樹は驚いた。背筋がゾッと冷たくなる。

 こうなるならもっと早く病院に行かせていれば良かったと、直樹は心底後悔する。


 保健室に着くと花音をベッドの上に降ろして下がる。


「草薙さん! もうすぐ救急車が来るからね!」
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