To.カノンを奏でる君
 小谷の言葉に、花音は頷く。余程痛いのか、ぽろぽろと涙を流している。

 そんな花音の姿に、直樹はショックを受けた。

 一番近くにいたのに、ここまで状態がひどい事に気づかなかった。思っていた以上の無力を知り、直樹は愕然とする。


 五分後に救急車が到着し、花音は救急車によって病院へ送られた。小谷が付き添い、運ばれた先は祥多の入院する幸場病院。

 病院到着後間もなく、連絡を受けた母が到着した。

 すぐさま診察が始まり、X線検査や内視境検査を行い、最終的に下されたのは神経性胃炎。


 花音は仮の病室に寝かせられ、点滴を打たれた。

 痛み止めを打たれた花音は、穏やかな寝息を立てていた──。















 コンコン、と美香子は静かにノックをした。これが初めてのノックだったりする。

 扉を開けると、ベッドで読書をしていた祥多と目が合う。


「よぉ、葉山」

「こんにちは」


 美香子は少し気落ちした声でパイプ椅子を立て、腰を下ろす。

 珍しく暗い美香子に、祥多は首を傾げながらもお決まりの文句を発する。


「花音は元気か?」


 いつも通りの質問だが、今日の美香子は答えられずにいた。

 いつもならば相変わらず元気だと答えているのだが、今日は違う。

 言おうかどうか迷った美香子だったが、黙秘する事は不公平に思えた。


 何事もフェアに、それが美香子のプライドだ。
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