To.カノンを奏でる君
第9楽章≫キミと初めてを。





「こんにちはー」


 花音は祥多の病室の扉を開けながら挨拶する。

 そこには、一足早くやって来たらしい美香子の姿とベッドの上で胡座を掻く祥多の姿。


「花音ちゃん…?」

「よぉ、花音。体調はどーだ」

「お陰様で」

「そか。ほら、座れよ」

「うん」


 ポカンとする美香子を見、花音は微笑む。


「任せっきりでごめんね?」

「……はい?」


 自分が優位だと思っていた美香子は、花音の方が優位だった事に気づき、衝撃を受ける。

 こんなにも献身的に尽していたのに、あっさりと花音にいいとこ取りされてしまった。ギリリと唇を噛む。


「何でいきなり普通に戻ってんのよ」


 いかにも不機嫌だと言わんばかりに低い声で、美香子は尋ねる。

 花音も祥多も黙り込んだ。まさか病院を脱走したのだ──と言えるはずもなく。


「あははは」

「普通じゃねー?」


 二人揃って挙動不審に笑う。美香子はますます不審がる。


「まぁまぁ、いいじゃない」


 花音は笑いながらパイプ椅子を二つ立てる。


「何で二つも立てんのよ」

「え? あ、直ちゃんも来…」

「ご機嫌よう!」


 直樹が元気良く突入して来る。


「「……げ」」


 美香子と直樹は同時に嫌な顔をする。どうやら、既に二人は犬猿の仲になっているようだ。
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