To.カノンを奏でる君
「ここは病院よ、花園君」

「あら。葉山さんこそ、病室間違えてませんかー?」


 弟さんの病室お隣でしたよね、と、わざとらしく笑う直樹。

 二人の間に火花が散る。それからお互い顔を反対に逸らす。


 祥多は真ん中に挟まれている花音を不憫に思った。


「ったく、何だよお前ら。ケンカなら外でやれ」


 険悪な雰囲気になるのを和らげようと祥多は口を開く。そんな祥多を、美香子と直樹は同時に睨みつける。


「「花園君[葉山さん]が悪いの!」」


 見事に被った二人を見、祥多は吹き出す。花音も笑う。

 仲がいいんだか悪いんだか。祥多と花音は同じ事を思っていた。


「葉山さん、弟さんの所に行かなくていいの?」


 花音は何気なく、気になった事を尋ねる。すると美香子は表情を曇らせる。


「何、そんなに追い出したいの?」

「そんなんじゃなくて、単なる疑問」

「……いいの。父さんと母さんが交互に看てるから」

「え?」

「柚に付きっきりなの。私は見向きもされない」


 寂しさと悲しさとつらさが入り混じった表情で、美香子は呟いた。

 花音は自分の軽率な発言を悔やむ。


「ごめん…なさい」


 素直に謝る花音に、美香子は我に返ったように表情を一変させた。申し訳なさそうな花音を見て慌て出す。
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