To.カノンを奏でる君
 そんな美香子の異変に気づいたのは、祥多だった。


「葉山? どうした?」

「え?」

「気分悪ィのか?」

「あ……大丈夫」

「そか。つらい時はつらいって言わねーと損するぜ?」

「う、うん」


 ニカッと歯を見せ笑う祥多に、美香子の胸は早鐘のように打つ。

 そうだ、祥多の病室は美香子が初めて見つけた自分の居場所。

 美香子は祥多を見つめる。


(そうだよ。やっと見つけたの。だから…)


 奪られるわけにはいかないと強く思う。

 例えそれが幼なじみで優位な花音相手でも、確保した心休まる居場所を守る為ならば何でもする。


 美香子は、自身にそんな誓いを立てた。















 起きなさいと言う母の声がする前に、目覚めた花音。起き上がって目を擦りながらベッドを整え、着替えに移る。

 いつもより少し早起きなのは、今日が特別な日だからかもしれない。


 今日から祥多は、一週間だけ学校に通う事が許されている。

 小学校卒業以来、学校に登校する事はなく、楽しみにしていた祥多。

 しかし、この日を楽しみにしていたのは祥多だけではない。共に苦しんで来た花音も直樹も、楽しみにしていた。


 花音は紺色のリボンを結び、青色のブレザーを羽織った。

 全身鏡に自身を映し、おかしな所はないか確かめる。


「ん、大丈夫かな」


 昨日の内で準備しておいたカバンを持ち、花音は部屋を出た。
< 91 / 346 >

この作品をシェア

pagetop