To.カノンを奏でる君
「幼なじみ?!」


 物凄い勢いで訊き返された花音は、たじろぎながら頷く。

 すると別の女子が二人の間を割った。


「彼氏じゃないの?!」

「え……えっ?」

「ほら、幼なじみ=彼氏じゃん!」


(な、何だろう、その無理矢理な式は……)


「彼氏じゃないよ。大事な幼なじみ。直ちゃんと同じ」


 その答えを聞いた祥多は複雑な顔をする。

 大事だと言われるのは嬉しいのだが…。


「ふっふっ……アタシと同じ、ねぇ」


 不気味に笑い、肘で祥多をつつく直樹。


 祥多は顔を赤くし、直樹の腹を肘で一撃喰らわした。直樹は一瞬にして青ざめ、前方に屈む。

 花音絡みの話に関しては、祥多は容赦ない。


「でもカッコイイね、時枝君」


 女子達は皆、祥多に見入っている。


 入院生活のせいで色白な肌に、細い体。父親譲りの整った顔立ち。

 花音は重大な事に気がついた。祥多はもしかしなくとも、女子達の好みの容姿だ。


 今更ながらの発見に花音は頭を痛める。軽い衝撃だ。


「時枝君! 彼女は?!」


 一人の女子が祥多に訊く。

 目を輝かせる女子を見て、花音は少しムッとする。しかしそれが嫉妬だという事に気づいていない。


「か、彼女?」


 祥多は唐突な質問に首を傾げる。

 登校早々、まさかそんな質問をされるとは思っていなかったのだ。
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