恋々綴り。【短編集】
#27
『夏祭り、クラスで行かない?』
目の前にいるクラスメイトの冬鶴君はそう言って誘った。今更になって、実は嘘でしたとさらりと言ってのけた。明らかに計画的犯行だ。あからさまに不機嫌な顔をすると、困ったような顔をされた。
「ごめんって、でも坂口そうでもしなきゃ来てくれないだろ?」
「行くわけないし」
だって男は嫌だ。
苦手だしなんにもわからないんだから。
花火があがるから、砂浜で待っていた。白浜の砂浜は本当に白い。さらさらしていて、痛くない。二人僅かな距離を保って座っている。
その時、不意に頭に温かいものが乗った。冬鶴の手だ。
「今日だけ、お願い」
優しくて温かい声色はお父さんを思い出させた。それなら、いいかと笑う。
そして、宣言。
「明日からお父さんって呼ばせてくれるならいいよ」
小さな桃色の花火が小さく打ち上がった。
Fin