甘い匂いに誘われて…

かなりの時間が経ってしまっただろうか。





「仕事に戻ろう。」



どんなに悩んだ所で答えが出るわけでもない。








この部屋には時計がなく、とっくの昔に時間の感覚がなくなってしまった。


腕時計で時間を確認すると、間もなく12時というところだ。






重い腰を上げ、空になったコーヒーカップを片手に会議室を出るが、オフィス内に部長の姿を見つけることが出来ない。






「部長なら直帰で本社に行ったわよ。」





後ろからぬっと現れた、同期で今は部下の知織が、私の顔を見ただけで適切な回答を述べる。







ちょうどよかった。
正直、今部長を目の前にして完璧に仕事をこなす自信がまったくない。



というか、平常心でさえ保てるかどうか微妙だ。








「なんだか赤い顔して会議室から出てくるし、何もない所で躓くし、今日の部長相当変よ。

あんたなんでか知らないの?課長でしょ。」






課長だからって、部長の何もかもを把握してると思ったら大間違いだ。


まぁたぶん、大方あれのせいだろう。






「顔に、知ってますって書いてあるわよ。

よし!
調度お昼の時間だし、今日は知織様が奢ってさしあげるから、知ってる事は全部吐きなさい。」





何時もの事ながらかなり上からの物言いでそう言うと、私の返事も聞かず、というか聞き耳を持たず、私を引きずるようにして会社から出て行くのだった。


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