『A』
プロローグ
 
バラララララララララ

ヘリコプターのプロペラ音が鳴り響く、夜の街。

とある極東の一国の首都であるその街の、そのまたとある一角。

なにやらやけに騒がしい、また、何か事件でも起こったのだろう。

13階建てのビルを取り囲むのは、治安の維持を己が仕事とする組織。

数十台のパトカー、完全に武装した数十人の隊員。

――なんとも物々しい。

蟻の子一匹通さない完全な包囲。

それを、真ん中から突っ切って、ビルへと歩いて行く二つの人影があった。

その先頭を歩く人物は、カツカツカツ、とお気に入りの革靴で、音を立てながら歩いて来る。

肩で風を切りながら歩くその傍若無人な様は、女性といえども、八九三と見間違えられても文句は言えないだろう……。
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