『A』

あの空を舞う燕のように

 
       ◇

「………!
己(オレ)は………そうか」

「………まだやれるかい?」

「…少しの間…夢を見ていたようだ…
懐かしい夢だ…
スマンな、待たせたようだ
………まだやれる」

ふらつく足で大地を踏み締め足を広げ、膝を90度の角度に曲げ、上半身は真っ直ぐに、両腕を伸ばし前に突き出す。

「馬歩」

「知っているか…
なら、この構えの意味も知っているな?」

「ああ…」

馬歩――この構えは、発勁を鍛える、拳法の基礎練法。

つまり、最も氣を練り易い構えでもあり、この構えで氣を練ったならば、かつてない威力の一撃が放たれる。

ただ、余りにも隙だらけな為、実戦の最中に使うことは、まずない。

「今から、底無しに氣を練り上げる…
…邪魔をするなら今のうちだぞ」

「邪魔?ハ!まさか
そんな真似できるかよ
せっかく、アンタが最高の一打を出してくれるってのに…
拝まないわけにはいかないだろう?
勿体ない」

「大塚亮…貴様は…強い!
その強さは計り知れない
なればこそ…、全力を出そう!
亮!
我が絶招――拳法の奥義・奥の手――を以て打ち砕かん!」

青い双眸をたぎらせて、小さな龍が牙を剥く。

長い闘いも、遂に終わりが近付いて来たようだ。
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