『A』
 
「兄が亡くなったのは先月…
兄は、地下鉄で電車に轢かれて死にました…」

「それは…ご愁傷様です」

「…でもなんでそれで、殺された、になるの?
もしかしたら、足滑らせて落ちたかもしれないじゃない?
その、酔っ払ってたとか?」

「…確かに、兄の死体からは、大量のアルコールが検出されました」

「じゃあ……」

「いえ、それはありえません」

「……なんで?」

「兄は下戸でした、生前の兄は、お酒なんて一口も口にしませんでした」

「………」

「更に、兄は極度に乗り物酔いが酷く…
地下という密閉された空間を走る地下鉄を、なによりも苦手としていました…
ですからまず、兄が地下鉄のホームにいた、という時点でおかしいんです…」

「…なるほど
では、何者かに無理矢理酔わされて、そして、地下鉄のホームから突き飛ばされた…と、こういうわけだな」

「…え、ええまぁ」

「所長、もう少しオブラートに包んで発言を…」

「………いえ、構いません」

「…フン、しかし、そうなると目的だな…
何故、君のお兄さんは殺されなくてはならなかった?」

「それは…わかりません
兄は、人から恨みを買うような性格ではありませんでしたし…」
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