『A』
 
       ◇

最初に会ったのは、小さな公園。

これといって変わった風景ってわけでもないその公園を、彼が凄く幸せそうな、穏やかな笑顔で、スケッチしてるのを見たの。

…え?そこで一目惚れ?

アハハ、ないって!

ブサイクって訳じゃないけど、決して、見た目カッコイイわけじゃないもん。

頭はボサボサだし、全くオシャレに気を使ってない服装…ま、一目惚れはありえないよ。

ただね…、なんとなく気になったの。

なんで、こんなつまらない風景を、あんな楽しそうな顔で描けるんだろう、って。

それから少し経って、彼が私のお店にケーキを買いに来たのね?

私はまだ、ケーキを作らせて貰えるレベルじゃなくて、レジ係をやってたの。

彼がお店に来た瞬間、“あ、あの人だ”って、すぐわかった。

で、彼ったらあろうことか…

「すみません、パンの耳下さい」

って、すっとぼけた事言ったの。

私は、何言ってんのコイツって思いながら…

「ウチはパン屋じゃありませんよ」

って、追い返した。

そしたら、次の日またやって来て…

「今日はケーキを買いに来ました」

って、500円玉だけ握り締めて買いに来たの…。

その日から、毎日彼は500円玉握り締めて買いに来るようになった…。
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