『A』

ドンパチ合戦

 
       ◇

「失敗した…ですって?
デストロォ〜イ
よく、ノコノコとその面下げて来られたわね」

香が焚かれた広い部屋、吉村淳美の私室。

そこに、山田奈津子の拉致を失敗した、という報告をしに、花山組若頭・森本が訪れていた。

「50人ばかし構成員を使ったんですが…
たった一人の女にやられちまいました…
しかも…その内の一人が捕まっちまって…」
「捕まった!?
今、捕まったと言ったの!?」

「ヘ、ヘイ」

「〜〜〜馬鹿かおまえは!
何を悠長にしてるの?!
あのジジィも秀一も、殺ったのがアンタ達だってバレたら、おしまいでしょうが!?」

ダン!と壁を殴り付ける淳美。

「もう手段は問わないわ!
どんな手を使っても始末なさい!
あの坊やも!
坊やの恋人も!
その『A』とかいう奴らも!
全て!
全て始末してしまいなさい!!」

「ヘヘ、ヘイ!」

「あぁ、それと…
捕まったっていう間抜け
そいつも始末してしまいなさい」

「タ…タケちゃんを…ですか?」

「そうよ、タケちゃんだかなんだか知らないけど…
その方が確実でしょう?
…文句ある?」

「い、いえ………」

淳美の、余りにも冷酷な瞳を見て、森本の背筋に、冷たい物が流れる。

「………」
(怖いお方だ…やはり…血だな…)

この世には、どうしても逆らってはいけない人物がいる、蛇に睨まれた蛙となった森本は、自分に後がないことを思い知らされた。
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