『A』
◇
「ね、そろそろじゃない?
次期社長がいらっしゃるの」
「そうね…く〜早く来ないかなぁ…」
ひそひそと、仕事中に内緒話をしているのは、吉村カンパニー本社の受付嬢の二人。
「………あ!来た!」
キィッ!とブレーキ音を立てながら、本社の前に停まったのは、黒塗りのベ〇ツのリムジン。
そこから出て来たのは、普段のボサボサ頭ではない、キチンとした身なりの健二郎と、タキシード姿でビシッ!と決めた、長身痩躯の美男、鷹橋匠だ。
「「おはようございます!」」
「おはよ〜」
「おはようございます」
元気よく挨拶をする受付嬢に返事を返す、次期社長とそのボディガード。
「はぁ〜〜〜」
「やっぱりいつ見ても…」
「「かぁっこいいよね!」」
ハモる二人。
「何者なんだろうね…
あの人…」
「ハァ…素敵…私の王子様…」
「ちょっと!アンタのじゃないでしょ!」
いなかった筈の次男のまさかの登場で、話題の中心だった健二郎だが、更に、三日前から現れた、謎の美形ボディガード。
完璧に、社内の話題を独占している二人であった…。