『A』
◇
最初に会ったのは、小さな公園でした。
公園で笑いながら、小さな子供達にケーキをタダで配ってました。
え?一目惚れ?
アハハ…、それはないですよ。
奈津子は、美人ってわけじゃないですからね。
あ…、奈津子には今のナイショでお願いします。
ケーキ作りに邪魔にならない程度の長さの黒髪、人の目を気にしてない服装…スタイルだって、よくはないですしね。
ただ…、いい笑顔するなって、印象的でした。
それから、彼女と子供達が遊んでいた風景を思い出しながら、その公園でスケッチするのが日課になりました…。
スケッチをする時、パンを消しゴム代わりに使うことを知ってますか?
使うんですよ。
でも、僕は親父に勘当されて、しかも絵ばかり描いてあまりバイトはしない、貧乏なフリーター生活。
パンなんて買ってる余裕はないんですよ。
パン屋さんだと、たまにパンの耳をタダで貰えることがあるんです。
パンの耳を貰いに、パン屋だと間違えて入ったケーキ屋で、彼女に会いました。
いつかの笑顔を見せながら接客する彼女を見て、“あ、あの時のあの子だ”って、すぐに気付きました。
「パンの耳下さい」
って、言った僕を、キョトンとした顔で見て、彼女はプッと吹き出した後、とびっきりの笑顔を、僕に見せてくれました…。