『A』
「両手を上げろっ!」
「………」
「早くしろっ!!」
「……は〜いはい」
ランニングシャツの男が、渋々、といった体(てい)で降参のポーズを取る。
「……こいつ、丸腰だ」
「単身素手でここまで来るとは……
なんて奴だ……」
「……フフン
半分は当たり
でも、半分は外れ……だな」
「……なに?」
バララララララララ!
大きなプロペラ音が耳に響く、腹に響く。
バララララララララ!!
ビルの窓スレスレに接近して飛ぶヘリコプターの姿が、そこにあった。
「バ、バカなっ!?」
事件が起きているビルと、隣のビルとの隙間は、なんとかギリギリ、ヘリが一台飛べる程度。
もしも、僅かに左右に50でもズレようものなら、プロペラは壁に接触し、ヘリはたちどころに墜落してしまうだろう。
針の穴を通すようなコントロール、超精密操縦技術がなければ、不可能な芸当である。