『A』
 
「両手を上げろっ!」

「………」

「早くしろっ!!」

「……は〜いはい」

ランニングシャツの男が、渋々、といった体(てい)で降参のポーズを取る。

「……こいつ、丸腰だ」

「単身素手でここまで来るとは……
なんて奴だ……」

「……フフン
半分は当たり
でも、半分は外れ……だな」

「……なに?」

バララララララララ!

大きなプロペラ音が耳に響く、腹に響く。

バララララララララ!!

ビルの窓スレスレに接近して飛ぶヘリコプターの姿が、そこにあった。

「バ、バカなっ!?」

事件が起きているビルと、隣のビルとの隙間は、なんとかギリギリ、ヘリが一台飛べる程度。

もしも、僅かに左右に50でもズレようものなら、プロペラは壁に接触し、ヘリはたちどころに墜落してしまうだろう。

針の穴を通すようなコントロール、超精密操縦技術がなければ、不可能な芸当である。
< 14 / 401 >

この作品をシェア

pagetop