『A』
………
「………ん?
ア、アレは……」
空港から出て来た美柑の目に飛び込んだものは、爆走する黒のリムジン、猛スピードのまま駐車場に突っ込んで来て…
ギャギィキキキィィ!!
というブレーキ音を立て、ピタリと駐車場の白線内に駐車する。
バタン!と勢いよくドアを開け、中から匠と健二郎が出て来る。
「奈津子ぉーっ!」
「ジローッ?!」
「あ、え〜っと…桃本さん」
「惜しい!桃戸だよ」
「ああ、すみません
桃戸さん、奈津子はどこですか!?」
「………もう!
遅いよ馬鹿!
ナッツン、もう行っちゃったよ…」
「えっ!?
そ、そんな…
ようやく……ようやく気付けたのに…
伝えたいことがあったのに…」
地面にペタリと座り込み、ガックリとうなだれる健二郎。
「………立ちなさい、吉村君」
「鷹橋さん………」
「諦めるのは早いですよ…
君は、私を嘘つきにしてしまうつもりですか?」
「嘘…つき?」
「必ず、彼女の元へ送り届けると言った筈です」
「でも…もう…奈津子は空の上なんですよ?」
「吉村君………ここがどこだか忘れたんですか?」
ニヤッ、と、珍しくイタズラ顔で笑う匠。
「ここなら、飛行機は山程あります」
キョトンとした顔の健二郎と、ピンと来た顔の美柑。
「なるほど…流石タカさん!」
「美柑…その呼び名は止めなさいってば」