『A』
 
       ◇

ここは…パリ行きの機内。

その中程の窓際の席に、山田奈津子は座っていた。

美柑はもういない、もう…強がる必要はないのだ。

本当は、納得なんてしていない、していよう筈がない。

誰よりも愛しい人なのだ、他の誰よりも好きになった人なのだ。

離れられる筈など…ない。

俯き、込み上げて来る涙を止めようともせず、ポタポタと、膝の上に滴が落ちる。

「二郎君………
二郎君………
私………貴方に会いたい」

とめどなく流れる涙…しかし山田奈津子は、ここで崩れてしまう程、弱い人間ではない。

常に前向きに、ポジティブに生きて来た彼女、どれだけ辛くても、前を向いて立ち上がる。

溢れる涙を拭い取り、彼女は顔を起こした。

彼女は、何かに気付いたわけではない、ただなにげなく、本当になにげなく、窓から外を見ようと横を向いたら…


愛しい彼が、そこにいた。

「???
………夢?」

空を飛ぶ飛行機の翼の上に、襲い来る強風に耐えながら…吉村健二郎と、桃戸美柑が立っていた。
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