『A』
 
匠の超精密操縦技術を以てすれば、相手の飛行機を全く揺らさずに、上に乗っかることなど朝飯前。

ハッチの電子ロックを石姫が解除し、扉を美柑がこじ開け、健二郎は中へ入って来た。

開いていたのは一瞬だった為、機内に被害は出なかった。

「じ、二郎君…
……ほ、本当に?!」

飛行機から飛行機に飛び移るなんて死ぬ程無茶な真似をして、心臓がバクバクと言っている。

でもそれ以上に、彼女の顔を見たという事が、更に心臓の拍動を強めた。

愛しい彼女の姿が、健二郎の頭の中を真っ白にしてしまった。

ああ言おう…こう言おう…、と色々と考えてはいたのだが、その全てが飛んでしまって…


「奈津子ぉっ!!
………大好きだぁっ!!!」

と、こんなことしか言えなかった。

ただ、そのあまりに不器用な告白が、彼女の心にいたく響いた。

「私も………
私も大好きっ!!!」

泣きじゃくり走り寄って来る彼女を、ギュッと、ギュッと、力一杯抱きしめた。

「もう離さない………
愛してるよ、奈っちゃん
世界中の、誰よりも…」

「うん、知ってるよ……」

「………よかったね、ナッツン」

もらい泣きした美柑は、涙を拭いながら、二人を祝福した。

呆然とする観客を尻目に、完全に二人の世界に入ってしまった二人は、いつまでも…いつまでも抱き合っていた。
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