『A』
◇
「おかえりなさい、所長」
黒のリムジンに乗って事務所へと帰って来た響子を出迎えたのは、先日、中国から帰って来た堀田貫。
小柄でやや猫背、おデコが広めな黒い短髪、顔は…カッコよくもなければ不細工でもない普通の顔、キョロッとした丸い眼が、小動物を思わせる。
ネクタイを外したネズミ色のスーツ姿、コレが彼の仕事中の恰好で、やや痩せ気味の体格は、余り筋肉は付いていない。
「おう、ただいま!」
「モフゥ!」
言いながら、貫の腹に膝を入れる響子。
「ちょっ、なんで蹴るんですか?」
「おまえがいなかった時に蹴る筈だった分だ、しばらくはコレが続くと思え…」
「そ、そげな………」
相変わらずの暴君っぷりを発揮する響子であったが、また相も変わらず貫は響子に逆らえなかった。
「……あ、そういえば、事務所に何か大きな包みが届きましたよ…
吉村とかいう方からで、桃戸さんが早く開けたいって騒いでました」
「吉村…あいつ…いや、あいつらからか…」
「吉村君からですか…何でしょうね、所長」
車を駐車し終えた匠が、こちらへ来ながら言う。
「さぁなぁ…私としては、ケーキだと嬉しいんだが…」
「パリからケーキは流石にないんじゃないですか?」
と、匠は軽く微笑んだ。