『A』

午後

 
       ◇

「…と、鷹橋ストップ
チョキグーパン店、このギリギリのネーミング…
確かにここだな…」

パチンコ店から10分程走って、やや入り組んだ商店街の端に、響子はお目当ての店を見付けた。

バタンと音を立て、車から降りる響子。

カランコロン

「オォー〜ッホホホホ!
いらっ…ってえぇ!?」

いつも通りに甲高い高笑いと共に、客を迎えた淳美であったが。

(ジィ〜ザス
な、何故!?
何故、美那海響子がここに…)

予想外の来客に、咄嗟に屈んで、レジの影に身を隠す淳美。

「…ん?
はてな?今の品のない笑い声、どこかで聞いたような…」

キョロキョロと首だけで店内を見回す響子。

(デストロォ〜イ…誰が品がないですってぇ!?)

ギリギリと、力いっぱい歯軋りをする淳美。

「…ま、いっか」

(でも駄目よ淳美…今は駄目…
BE COOL…
BE COOL…
ここをパン業界でスタンダードな大手にするまでは…
あの女を見返してやるまでは…
ここで働いていることはあの女には内緒、今は堪えるのよ!淳美!)

「ほう…これは…確かになかなか美味そうなパンだな…
チョココロネに、クリームパンに、チョコマフィンに………」

淳美の葛藤等全く知らずに、響子は楽しくパンを物色する。

ヒョイヒョイヒョイ、と、菓子パンばかりトレイに乗せていく響子。

「っと…そういや鷹橋の分も買ってやらないとな…
…う〜ん、あいつ苦いの好きだし、この“ゴーヤジャム”と、食パンでいいだろう…」

B級SF映画に出てくるモンスターが口から吐き出しそうな液体の詰まった瓶と、食パンを一斤トレイに追加。

「会計を………ってアレ?
誰もいないのか?」

(ヒッ!)
ビクッ!
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