『A』
◇
「…ん、もう後少しだな…
鷹橋ありがとう、ここでいい、ここからは歩いて行く
…と、スマンが、こいつらを事務所に持って行っておいてくれ」
響子が顎で指し示したのは、大量のバウムクーヘンと漫画、今日の戦利品だ。
「わかりました」
古本屋を出た響子が向かったのは街の中心部、元吉村カンパニーの本社で、今はハーモニー(株)の支社の一つ。
吉村カンパニーを、吸収・合併してからというもの…響子はたまにここを訪れる。
最初は、響子が経営者になったことに驚きを隠せない社員一同であったが。
たまに来て、チラッと書類を見ただけで出した響子の指示通りにしてみると、面白いように業績が伸びる。
今では響子のカリスマ性を慕い、社員一丸となって会社を盛り上げている。
今日も、ヒョイと顔を出した響子を厚く歓迎し、指示を仰ぐ社員達。
現在の状況を響子に方向した後は、皆息を呑み、メモを持ち指示を待つ。
響子は三分程思案した後、おもむろに口を開き…
「DMの奴らに例の構築作業を三日以内に終わらさせろ、寝る間を惜しんでやれと伝えておけ
海外事業部の業績が伸び始めている、予算を20%UPしてやれ、奴らはもっと伸びるぞ
廃棄物処理コスト削減の研究班を二班に分け再結成しろ、競わせて成果が低い方は解散だ
それから………」
と、マシンガンのように言い放たれる響子の指示を、社員達は必死にメモを取る。
結局、会社にいたのは、僅かに30分程だったが、響子はその短期間に、都合85もの指示を出した。
後日、それら全てが業績UPに繋がったことは、言うまでもないだろう。