『A』
 
       ◇

組員に送られて、事務所兼自宅へと辿り着く…。

「ただいま〜っと」

電気も点いていなくて、もう皆寝たんだとわかりつつも、とりあえず帰宅の挨拶をする。

「………ん」

テーブルの上にあったのは、ラップがかけられた食事と…

┏━━━━━━━━┓
┃時間になったので┃
┃先に食べました、┃
┃これはキョーコの┃
┃分です     ┃
┃チン!してから食┃
┃べて下さいです ┃
┗━━━━━━━━┛

…という、石姫の置き手紙だった。

夜遅くに帰ることが多い響子、その為、夜8時になったら、それ以上待たずに食べるというルールが、響子、美柑、石姫の三人の間にはあった。

響子は自分の分の夕飯を温め直し…

チン!

そして、ペロリと平らげた。

「ごちそうさま」

例え作った人がいなくても、感謝の気持ちは忘れない。

「フア〜ァア」

歯を磨いて、大きく欠伸をした後、寝巻に着替える。

響子の寝巻は、Yシャツのみで、響子いわく“マニアの好みを押さえた寝間着”だそうだ。

「………っ!
な、なんだ!?」

無人の筈の自分の部屋に入った途端、ユラユラと揺れる人影に驚かされる。

電気を点けてよく見てみると…

「………堀田?
ヤベ…忘れてた」

朝ジャーマンで床に叩き付けられ刺さっていた貫が、朝からそのままだったようだ。

「………むぅ、弱ってるな…」

胸に耳を当て確かめてみたが、朝よりも心音が弱い。

まぁ、普通に考えて当たり前のことだが。

「………仕方ないな…」

「よっ」と言って、刺さっている貫を、まるで聖剣エクスカリバーを抜くアーサー王のように劇的に引き抜き、ベットに横たわらせる。

「弱ってるみたいだからな…特別だぞ…」

意識のない貫に言い訳をしながら、横に添い寝する響子。

カチリと電気を消し、貫を抱き枕を抱くように抱きながら、響子の意識は、深い眠りへと落ちていった。

………

TO BE NEXT →『はじまりの事件』
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