『A』
「依頼内容は直接会ってから話したいってことだったが…」
「ええ、携帯なんて電波を傍受されやすい通信機で話せる内容ではありませんでしたから…」
男はコーヒーを一口啜り、一息ついてから仕切直す。
「依頼内容は…あるものを盗み出すことです」
「盗み…か
あるものなんて、随分曖昧な言い方だな…」
「ええ、具体的な名称はわかりませんし…
どのような外見をしているかもわかりませんから…」
「何を盗むかもわかってねぇのに、盗みなんてやれるかよ」
「その点は心配いりません
かなり細かく場所の指定ができましたから…
ここです」
バッとテーブルに地図を広げ男はある一点を指差す。
「…綾瀬食品研究所?
なんだ、ライバル会社の新商品でも盗もうってのか?」
「…ここは、表向きはそういう施設ですが、実際は違います………」
貫はタメを作る、亮もまた、それがわかっているので無言のまま待っている。
「ここで行われているのは、通常の人間よりも優れた人間を作り出す研究…つまりは、人体実験です」
「人体実験?まさか…」
「まさか!まさか、この平和な日本で?
と、そうお思いでしょうが、これは本当のことです
そして…もうお分かりでしょう?
貴方に盗み出して頂きたいものとは…」
「研究成果…つまりは、人間か」