『A』
 
「うん、お嬢、大分凝ってるね…」

肩を揉みながら言うメイド。

「あぁ………と、そこそこ
あぁ、いい…
…うん、上手くなったな、みかん」

「エヘヘ…」

 
「こんなところにいつまでもいるのもアレですし…
お嬢様、とりあえずお車の方へ…」

「そうだな、わかった
みかん、もういいぞ」

「らじゃー」

………

黒いリムジンに乗り込む三人、市民ホールを後にする。

お嬢様と呼ばれた女性が、この市民ホールで何をしていたかというと、交響楽団・オーケストラのコンサート、そのヴァイオリンを担当していたのだ。

だが別に彼女は、ヴァイオリニストというわけではない…。

今日引き受けた仕事がたまたまソレだっただけのことで。

ある時は陶芸家…
ある時は発明家…
またある時は会社の経営者…と、彼女の仕事は実に多岐に渡る…。

それは、今まで生きて来た彼女の在り方に由来するものであった…。

美那海家は、古くは飛鳥時代の豪族を起源とする、由緒正しい家柄で、その家訓は…

『常に何事も一番であれ』

というものだった。

その為、幼い頃から、彼女はありとあらゆる分野の知識・技術を叩き込まれて生きて来た。

そして彼女は、長く続いた美那海の歴史の中でも、最高の才能を持つと言われ、
事実、例えどんな分野であろうと、彼女に勝てる者は未だ現れていない。

美那海家の最高傑作、それが、この美那海響子という女性だ。
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