『A』
 
「鷹橋、今後のスケジュールはどうなっている?
と、一つ揃った」

後部座席で美柑とジジ抜きをしながら、運転する匠に話し掛ける響子。

ちなみにジジ抜きとは、ババ抜きのジョーカーの役割を、ランダムに決めたカードが担うというもので、ババ抜きに推理の要素の加わった、ババ抜きよりもやや高度なトランプのゲームだ。

「本日はこの後、貝原先生とお食事をした後、お茶会があります、その後、ハーモニー(株)にて新たな発明品の説明会があり、またその後、Fテレビからインタビューを受けて、またまたその後…」
「あ〜あ〜!
もういい、もういい」

トランプをする手は休めずに、匠の言葉を遮る響子。

「ようはスケジュールみっちりってことだろ?
最近忙し過ぎやしないか?」

「来た仕事の依頼は全て受けろ、との旦那様からのご指示でしたので…」

「チッ、あのクソ親父が…」

「ん〜、それにしてもなぁ…
なんつうか…こう…つまらん」

「ええっ?!
何その理由?
あ、ア〜ガリッ!」

驚きながらも、最後に揃ったトランプを、美柑はパシッと座席に叩き付ける。

「むっ?
やるな、みかん
私に勝つとは…」

「つうか、二人でやるものじゃないよね、コレ」

「…フム、確かに…」

トランプを集めながら頷く。

「……あ〜あ…
なんかこう、グワッ!と、オモロ楽しいこと起きないかな〜
宇宙人が攻めて着たり、月が降って来たりよぉ」

「なになに?またなんかアニメ見たの?」

美柑の言葉を適当に流し、窓の外をボンヤリと眺める響子。

その時、横に流れる彼女の視界に、一瞬ランニングシャツの大男が映る。

その男が、響子の言う、オモロ楽しいことを運んで来てくれる存在だということを、彼女はまだ知る由もなかった…。

………
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