『A』
肉食獣じみた速さと動きで、疾走して来る男に対して、研究員達はマシンガンを乱射する。
パララララララッ!
だが、撃ち方が明らかに慣れていない。
技術等まるでない、ただ、前に向けて撃ち続けているだけ。
今まで、銃弾飛び交う幾多の戦場をくぐり抜けてきた男にとっては、目をつぶってても避けられる代物だ。
通行の邪魔をする者のみを倒し、男は先を急ぐ。
逃がすものかと、男の背中目掛け、研究員が発砲しようとしたが…
[馬鹿者!
銃なぞ使うな!
“アレ”に当たったらどうするつもりだ!?]
無線から、綾瀬食品研究所所長の怒号が飛ぶ。
「で、ですがこのままでは…」
銃弾すらも回避可能な男を、一研究員であるだけの彼らに、素手で取り押さえること等不可能だ。
男は包囲を突破し、遂には窓から飛び出し、脱出した。
「なっ!?
ここは10階だぞっ!?」
驚く研究員を尻目に、男は隣のビルとこの建物との間を、タンタンと交互に蹴りながら、難無く地面に着地して、走り去っていった。
………
「所長!
どうしましょうっ?!」
所長室にバタバタと、研究員達が数人駆け込んで来る。
「アレなしでは…我々の悲願は!」
「………むぅ…」
腕組みをしてしばし考える所長…
「………
起こってしまったことは仕方なかろう…
これは、我々では対処しきれない問題だ…
“あのお方”に、報告するしかないだろう…」