『A』
 
       ◇

「ねぇリョー」

「………んん?なんだ?」

思い出と呼ぶには近過ぎるが、思い出に耽っていた為やや反応が遅れる亮。

食事を終え、ゴロゴロとしていた亮に、少女が話し掛けて来た。

「まだ…えっと…トール…だっけ?
その人とは、連絡取れない…ですか?」

「あぁ…コールはかかるんだけどな…
ちっとも出やしやがらねぇ…」

「………そう…ですか」

ホッとした表情を浮かべる少女。

初めて体験する外の世界、そして、ぶっきらぼうだがとても優しい同居人。

少女は、今の生活が気に入っていた。

「じゃあ、ここにいても仕方ない…ですし
少し出掛けよう…です」

「………あいよ
そうしましょう」

少女の提案をアッサリ受け入れる亮。

少女が、一度言い出したらガンとして退かない性格であることを、この三日間で、嫌という程思い知らされていたからだ。

「で、今日はどちらへ行きたいので?お姫様」

少し皮肉めいた口調で亮が言う。

「ペットショップに行きたい…です」

「…ペットショップ?」

「うん…
猫を…触ってみたい…です」

「…オーケイ
ちょっと待ってな、歯磨いて来る…」
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