『A』
三人が三人とも違う構えを取り、警戒しながら亮との間合いを詰めて行く…。
「………
空手…柔術…それに…骨法か!
国産武術のオンパレードじゃねぇか」
「っ!
構えを見ただけで見抜くとは…
どうやら、ただ生まれ持った身体能力に頼ってる男ではないようだな…」
最初に蹴りを放って来た背広姿の男が、また感心したようにそう言う。
男の構えは、左前のやや半身、膝を大きく曲げ猫足立ち――踵を浮かせること――、開手で掌を下に向け、左手は上に、右手は下に構える。
天地上下の構えと言われる、空手独特の構えだ。
「あ…こ、こいつ…かなり強そうなんだな」
この場で最も体格が良い男は、そんな、余り賢くはなさそうな口調でそう言った。
構えという構えは見せない無形の形、形が無いことが形という考え方。
全く力まずにリラックスした構えは反射係数を高め、俊敏な動きを可能とし、打撃を受け流す。
ただ、やはり達人クラスとはいえど、まだまだ武術を極めたわけではない。
やや重心の偏りが見られ、“組み付きたい”という考えが、構えから亮に見抜かれてしまった。