『A』
 
車から下りて何が起こったかを確認しようとした匠の胸倉が、いきなりグイッ!と掴まれる。

「いきなりで悪いが乗せて貰うぞ!
嫌っつっても乗るから……な?」

匠に怒鳴り付ける男の表情に、はてな?と、疑問の色が浮かぶ。

「アンタは…黒鉄の鷹!?」

「そう言うランニングシャツ姿の貴方は、あの時の…いやぁ、また大きくなりましたね
美柑!ホラ、あの時の彼ですよ」

「え?………あぁーっ!
アンタは!
久しぶりじゃん、元気してた?」

と、窓から身を乗り出して美柑。

「あっ!オメェは!
なんでいんだ?
つか、黒鉄の鷹!アンタ全然変わってないな!」

と、目を白黒させる亮。

「…なんだ、二人の知り合いか?」

「ええ、昔ちょっと…
…と、そういやさっきの…
車の上に降って来たのは、もしかして貴方ですか?」

「ああ!そうだった!
のんびりしてる場合じゃねぇ!逃げねぇと!」

美柑と、別れた以降の出来事等を、談話していた亮だったが、思い出した!という風に、匠にそう告げる。

よく見ると、所々怪我をしていて、小脇には無表情な少女を抱えている。

顎に手を当ててしばし思案した後、匠が導き出した結論は…

「………誘拐?」

これだった。

「違ーーーっ!…うくはないのか?
と、とりあえず事情は後で話すから!」

「そうですね、とりあえず乗って下さい
お嬢様、よろしいですか?」

「おお、いいぞ
フフン、なんだか楽しくなりそうな予感がするな…」
< 313 / 401 >

この作品をシェア

pagetop