『A』
ヘリから出て来た三人の内、中心に立つ不機嫌そうな男は、一言で言うと黒かった。
黒の短髪。
やや浅黒い肌。
真っ黒な瞳。
黒のロングコートを纏い。
黒い長ズボンを履き。
黒い革靴を履き。
黒いバンドを巻いていた。
そして、恐らくは下着までもが、黒で統一されているのであろう。
そのただならぬ雰囲気に、頭の中で激しく警鐘が鳴り、身構える亮と匠の二人。
して、その男の姿を見て驚いたのは、桃色の髪の、少女と女性の中間といった年頃の人物・桃戸美柑だった。
「アレ?アンタ…
え?なんでここに?」
「久しぶりだな…NO.00679…いや、今は桃戸美柑と名乗っているのか…」
眉間に皺を寄せたまま、男は不自然に笑んだ。
「えっ、なんで知って…」
「君のことはいつも影ながら見守っていたよ
魅力的な人材に育ったな…
外の世界に出したのはやはり正解だったようだ」
男はウンウンと頷く。
「美柑、あの時の約束は覚えているな?
【時が来たのだ、約束通り働いて貰うぞ】」
「!」
まるで雷に打たれたように、美柑の全身が硬直した。
「あ…ああ……」
深く、暗く、黒い男の瞳に見据えられ…。
そして、なによりも厚く低い男の声を聞き…。
美柑は、自分の意識が急速に薄れていくのを感じた…。