『A』
「美柑?
どうしたんですか!?
美柑!」
茫然自失となった美柑の両肩を掴み、ガクガクと揺さ振る匠。
しかし、美柑の目は焦点が合わず、明らかに様子がおかしい。
「さて………」
「ひ」
ビクッ!
様子のおかしい美柑を放って、少女に視点をズラす男。
男の黒い瞳に見据えられ、少女は無意識に、身体をビクッと強張らせる。
「私が言ったことを覚えているだろう?
貴様はそういう風に作られたのだからな…
言っただろう?貴様は石だ
余計な感情は抱かず、ただ私の踏み台となる道具だ
その貴様が…何をしている?」
ギロリと男に睨まれ、少女が全身をブルブルと震わせる。
「てめぇっ!
どこの誰だか知らねぇが…なんてこと言いやがる!
人を物扱いすんじゃねぇ!」
亮が猛る、乱暴な言動とは裏腹に、その実誰よりも他人に優しい彼にとって、男の発言はあまりに許し難いものだった。
「………」
男が、無言で亮の方を見る。
その表情には何の色もなく、全くと言っていい程興味がない様子だ。
「“ソレ”は、私の物だ…
自分の所有物を物扱いして何が悪い?」