『A』
「クツクツクツ
さて、私も遊びに来たわけではない
そろそろおふざけは終わりにしよう」
歪んだ笑みを貼付けていた男の顔が、再び眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔に戻る。
「【石よ…こっちへ来い】」
男の声を聞いた瞬間、四つん這いになっていた少女は、フラフラと立ち上がり歩き出す。
それを、もう一度後ろから抱きしめ、行かせない亮。
「さっきの話…なんだかよくわかんなかったが…
ヒメはヒメだ!
人間であろうとなかろうと、関係ねぇ!」
少女は歩みを止められ、顔には困惑の色が浮かぶ。
彼女の中で、何かが葛藤しているようだ。
「やれやれ
付き合ってられんな
【美柑、邪魔者を排除し、石を連れてこちらへ来い】」
茫然自失となっていた美柑の瞳に色が点る。
だがそれは、深く暗い黒色、男のソレと同じ色だった…。
「グ…かはっ」
自分の両肩を掴む匠…つまりは邪魔者の脇腹に、隠し持っていたナイフを突き立てる。
「なっ?!
〜グハァッ!」
少女を抱き止める亮…つまりは邪魔者の顔面を、力いっぱい殴り飛ばす。
その時、桃色の髪から桃の花が抜け落ちる。
美柑の国宝級の腕力に殴られ、亮の100を越す身体が、ピンボールのように弾け飛んだ。