『A』
 
「確かに確かに、ジャムを重宝するパン屋はそうないでしょう
菓子パン売った方が楽ですからね〜
でもね、アンパンやらうぐいすパンやら、色んな菓子パンがありますけどね……
パン屋としては、シンプルな食パンを買っていってくれるのが嬉しいんですよ
シンプル故に、1番力量が問われるものだし……
それに、食パンは毎日食べられるでしょう?
よっぽどの好きものじゃない限りは、毎日あんパンだなんて耐えられない
シンプルな食パン故に、多彩な食べ方が楽しめる
あなた、アンパンをフレンチトーストにして食べたりできるぅ?
できないでしょ?」

フランス人のような返答をしたかと思うと、聞いてもいないのに、熱くパンについて語り出した。

ただ、その内容は……

「なるほど、確かにそうですね」

と、思わず相槌を打ってしまうものだった。

「ね?
で、奨めるだけ奨めて食パンだけ売るんじゃやや無責任、だから、食べ方の一つである
“ジャムを塗って食べる”
ってのの、バリエーションを豊かにしようと、このコーナーがあるのさ」

「う〜ん……ますますなるほど」

「アァー〜ッハハハハ!
素直でよろしい!
どうだい?食パンと、適当にジャム2、3個買っていくかい?」

「そう……ですね
うん、そうします
じゃあ、このキウィジャムとバナナジャムを」

「アァー〜ッハハハハ!
まいどありぃ!!」

カランコロン

「ありがとうございましたー!」

………

「……やられた」

気付いたら、1リットルはあろうかというジャムの瓶を2本、食パンを2斤も抱えて、外へと出ていた。

「商売上手だな」ボソリと一人呟いて、昼食にしては明らかに買い過ぎた量を抱えて、事務所へと歩を進めた。
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