『A』
 
「ぬっ?!」

着地するや否や、抱えていた響子と貫をその場に残し、あっという間にビル内に入る亮。

亮には亮の目的がある、その為には、ここで一輝にかかずらわっている暇はないのだ。

亮のあまりの速さを、一輝は目で追うことしかできなかった。

「あいつにはあいつのやることがあってな…
黛一輝、貴様の相手は私達だ…」

亮が小脇に抱えていた人物二人、響子と貫が一輝の前に立ち塞がる。


「――相手になると…思っているのか?
私の前で、【動くこともできない貴様らが!】」

「うっ、く………」

「隙だらけだ、馬鹿め
――噴っ!!」

動けなくなった貫に対して、八極拳独特の、滑るようにして距離を一瞬で潰す“活歩”と呼ばれる歩法で近付き、地響きのような震脚で、一輝は屋上の床を踏み抜く!

そして、八極門の技の一つ、裡門頂肘を叩き込む。

「ぶぐぅどぅはっ!」

弾け飛び屋上の貯水タンクにぶつかる貫、もしそれにぶつからなければ、遥か彼方まで飛んで行ってしまう程の勢い。

衝撃で貯水タンクは壊れ、中から噴水が起こる。

「つまらんっ!」

吹き飛ばされる貫に全く目を向けず、そのまま響子に外門頂肘――外側から回すように打つ肘打ち――を放つ!

が。

「………馬鹿な…」

動けない筈の響子は、それをゆるりと優雅に躱した。

「聖〇士に同じ技は通用しない…これはもはや常識!
…なんてな、ま、冗談はさておき
何の勝算もなしに、ただヤラレにまた来るかよ…」

「馬〜鹿」と毒づきながら、響子は悠然とお気に入りの煙草に火を着けた。

「これは驚いた
我が《強制言語(ザ・ワード)》の力に逆らうとは…
認識を改めよう、敵とみなす」

一輝は、先程とはまるで違う本気の眼を響子に向けた。
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