『A』
◇
「さて、そろそろ始めようか、大将」
全身を黒に覆われた男、黛一輝に、響子はそう告げる。
「最後に一つ聞きたい
貴様、何故先程動けたのだ?
何故、私の能力が効かなかった?」
「フン、そうだな
本来なら、ここでかつての貴様のように得意げにネタをばらすような愚行をしたくはないんだが…」
ホワッ、と、煙のわっかを作り飛ばす。
「それじゃあ片手落ちってもんだからな
…教えてやるよ」
響子は眼鏡を中指で持ち上げ、更に人差し指を加え、そのまま天に向け立てた。
「ポイントは二つ
一つ目は貴様の説明の中にあったこのくだり
『まぁ、そうは言っても絶対ではない…
自殺しろ、等という余りに無茶な命令を聞かせることはできない
現に今、動くな、と言ったが、心臓等の不随意筋の動きまで止めることは出来ていないからな…』
これだ」
指を一本減らし、一輝の声色を真似る響子、本人が驚く程似ている。
「そしてもう一つ
動くなという命令を貴様が出したにも関わらず、堀田が前のめりに倒れ込んだという事実
以上の二つから、ある結論が導き出された」
再び指を二本にし、一輝にズイと見せ付ける。
「貴様の《強制言語(ザ・ワード)》の能力とは
“人間の神経系に干渉し、その内部の電気信号を支配する能力”だ
不随意部までは支配できないのがその証拠だ」