『A』
「………ムゥ」
肯定も否定もせず、一輝はただ短く呻いた。
「そしてその干渉手段とは、ズバリ“空気の振動”
“音”とは、空気が振動して起こるものだ
貴様は、“声”という“音”を出すこと、つまりは“空気の振動”を起こすことによって、他者の神経系に強制的に任意の電気信号を流し込んでいる、というわけだ
もっとも、細かい原理まではわからんがな」
「…驚いたな
あんな僅かな情報でそこまで看破するとは…」
「ま、天才ですから?」
肩を竦めヘラつく響子、同時に煙草を跳ねさせて、灰を床に落とす。
「つ〜わけで、ネタさえわかりゃ恐るるに足らず
もう貴様の能力は、私には効かん」
「………
クツクツクツ
げに面白い!
貴様のような魅力的な人材を見逃すとは、私としたことが抜けていたな…」
「馬〜鹿、仮に前々からの知り合いだろうと、お前のわけわからん怪しげな計画に、協力する私じゃないぞ」
「クツクツクツ
そうだな、そうだろうとも
何者にも縛られぬその自由奔放さ、その手綱は私には重そうだ」
「フッ、わかってるじゃないか」
鼻を鳴らす男と女。
「こうなればもはや言葉は無粋
天から偶然に授かった特殊技能にのみ頼る私ではない!
この鍛え上げた身体と、磨き抜かれた技術を以て…
障害を力で捩伏せよう!」
「そうそう
気に入らない奴はブン殴る…
それくらいわかりやすい方がいいぞ
アンタさ、台詞が芝居がかり過ぎて回りくどいんだよ」
響子が吸っていた煙草をピンと投げ捨て、軽口を叩きながらも、それはもう珍しく真面目な顔をして、目の前の男を睨み据える。
三つの違う場所で、三つの違う戦いが始まる。
この激突を制するのは…果たしてどちらの勢力か。