『A』
 
       ◇

響子と一輝の攻防は、正に一進一退。

長年に渡り、鍛え磨き続けて来た一輝の肉体と技術、それと全く同レベルの性能を、才能と僅かな努力だけで発揮する響子。

両者の力の質は正反対だが、ともあれ、実力は互角。
一打必倒の打撃をダースで放つ一輝、それを、響子はまるで柳のようにいなす。
裡門頂肘。
打開。
猛虎硬爬山。
虎撲。
六大開・頂。
六大開・提。
金剛八式・衝捶。
八大招・通天砲。
八大招・朝陽手。
連環腿。

八極拳の技を惜しみ無く使う一輝。

一呼吸の内に放たれる、必殺の連続攻撃。

そのとめどなき連撃は、正に大岩を砕く激流の様。

それらを、響子は全く力まずに、巧みに力をいなす。

とはいえ、その間断なき激しさの前には、反撃をする余裕などはなかった。

一輝が攻め響子が守る、というわかりやすい図式が成立していた。

「やるな
私とここまで打ち合うとは…」

「アンタもな
あれだけの能力を持って生まれて、そこまで肉体を研鑽する等、なかなかやれることではない…」

「フム、久方振りに愉快な時間だった…が、遊びはここまでだ
私は君以上に、私を知り尽くしている
残念だったな、【君は私に勝てない】」

「………〜〜〜!」

男が言葉に魂を込める。

それを、歯噛みし耐える響子。

「やはりか…
私が言葉に込めた魂、呪力を上回る意志を持てば、私の言いなりにはならない…か
少し考えればわかることだったな」

一輝の力のメカニズムを解明できた響子ではあったが、あまりにも時間がなかったので、具体的な対策は立てられずにいた。

なればこそ、一度は相手の意志を跳ね返せる筈と自らを信じ、ハッタリで乗り切ることにしたのだった。

一輝は構えを解き、響子をその黒い瞳で見据え言葉を続ける。

「しかし、言うは易し行うは難し…
堪えるという単純な方法ではあるが、私の意志を上回る意志力、たいした自我の持ち主だ」
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