『A』
「しかし、聡明な君のことだ
君が挑んだ戦いは、最初から勝ち目がないことを知っているだろう?」
「………」
響子の顔色が変わる。
「クツクツクツ
堪えられる…というだけでは、勝ち目はない
私の言葉を必死に否定し、耐えるだけ…
ただひたすらに相手の攻撃をガードし続けるだけと同じこと
いずれはダメージが蓄積し、KO・ノックアウトだ
わかっているだろう?
一度でも、私の言葉をはねのけただけでも、たいしたものだ
だが…
【君はこれ以上、私の言葉に抗うことはできない
そこでじっと動かず、運命の時を見届けたまえ!】」
普段よりも遥かに強く込められた男の強烈な意志に、響子は完全に沈黙する。
一輝のしている腕時計が、時の襲来を告げる。
「時間ピッタリか、うん、実に気分がいい
さあ、遂に世界が生まれ変わる、運命の時だ…」
一輝はバッ!と両腕を天に掲げ、空を仰ぎ見る。
遂に達成される、悲願の時。
その時を前にして、一輝は一人涙した。