『A』

二人、夜空を見上げて

 
       ◇

「………くっ」

墜落し炎上したヘリの中から、匠が這い出て来る。


「どうやら…生きているようですね
!そうだ、美柑は!?」

一緒に落ちた筈の美柑が見当たらない。

キョロキョロと、忙しなく辺りを見回す匠。

ガラッ………

「っ!
美柑っ?!」

ヘリの残骸から這い出て来た人物は、桃色の髪で、紛う事なき、桃戸美柑その人だった。

「美柑!
よかった、生きて…」
「ギッ!」

喜び近寄る匠に、美柑は拳を繰り出す。

それを咄嗟に屈んで躱し、距離を取る。

「美柑…まだ…」

美柑が一輝から与えられた命令は、邪魔者を排除しろというもの。

落下の際に武器という武器は無くしてしまったが、それでも尚、戦うことをやめない。

「美柑!
私です!
鷹橋匠です!
私がわからないんですか!?」

「グ……ゥ…タカ…さん」

「っ!美柑っ!」

「タカさん…駄目…身体…言う事聞かない
早く…逃げて…
このままじゃ、私タカさんのこと殺しちゃう!」

美柑の身体が小刻みに震える。

その震えが、彼女の内にある葛藤を、如実に顕している。
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