『A』
常人の数十倍の身体能力を持つ美柑だが、その身体の耐久性は、せいぜい通常の三倍といったところだ。
子供でもわかる単純な計算だろう。
強力過ぎる力は、器を壊す、紙袋の中で爆竹を爆発させるようなものだ。
激し過ぎる爆発は、紙袋を内側から破壊する。
美柑の身体は、完全にガタが来ていた。
本来の美柑ならば、一部の能力を短い時間だけ限界突破させる、という特殊技能の使い方をする。
だが今の美柑は、常にアクセル全開、フルパワーの状態を維持している、おかしくならないわけがない。
わかっていて、一輝はこんな命令を出したのだろう。
美柑を、使い捨ての駒としか思っていなあ。
身体は既に限界に来ている、美柑を襲う激痛たるや、
想像することすら叶わない。
それでも尚…
ヒュッ!
ボカンッ!
グシャリ…
美柑は攻撃の手を休めない。
振り下ろした美柑の右拳が、勢い余り道路を砕く。
その威力に、美柑の右手の骨が、グシャリ、という嫌な音を立てて折れ砕ける。
人に行動を強制させる一輝の《強制言語(ザ・ワード)》といえど、本来、ここまでの強制力はない。
兵士量産工場“ファクトリー”、そこで受けた遺伝子組み換え手術。
その時に、絶対服従するよう、遺伝子レベルで組み込まれているのだ。
最も、一輝の能力があってこそだが。