『A』
 
………

「!ヒメっ!」

扉という扉を蹴破り、ついに亮は、少女を見付け出す。

「………ヒ、ヒメ?」

少女は、他に誰もいない部屋の中、パソコンの前で一人座っていた。

瞳を閉じ、身体は完全に弛緩し、両腕両足をダラリと下げ、椅子に座っている。

その姿は、少女の容姿と相俟って、一瞬、人形かと錯覚させられる。

「ヒメ!…おい、ヒメ!」

両肩を掴みガクガクと揺らし、少女の名前を呼び続ける亮。

しかし、少女はなんら反応を示さない。

「ヒメ?
お前…どうしちまったんだよ…」

亮はハッ!となり、少女のペッタンコの左胸に耳を当てる。

ドクン…ドクン…

「………ホッ」

心臓は動いている、死んではいない。

少女がどうしてこんな状態になってしまっているのか、亮には全くわからなかったが、これは、一輝の力によるものだ。

少女はいつも言い聞かせられていた。

自分は、一輝の踏み台となる石だと。

そして、石に感情は必要ないということを。

亮と抜け出した後、連れ戻された少女は、一輝に熱心に再教育された。

少女は今、何も考えず、何も感じない、一個の石となったのだ。
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